YELL
「じゃあこの前振りうつしした応援歌やります。入って。」
「はい!」
チアリーダーの練習を仕切るチアリーダー長をしている、4回生の北原さんがプレーヤーのボタンを押す。
前奏は両足でかかとを浮かせてリズムを取る。
歌が始まると、全力で声を出しながら踊る。
はる子とあれだけ練習したし、大丈夫なはず。そう思って堂々と踊り出したのに、途中で顔を横に向ける踊りのとき右を見たら、はる子と目が合った。
あ、左右逆だ。
次の瞬間頭が真っ白になって次の踊りが何か分からなくなった。
自分だけ時間が止まる。
周りは踊り続ける。
とりあえず声を出さなくちゃ、気づいて歌い始める。
きりが良いところから入ろうと思うのだけれど、もう今の踊りが何なのか考える余裕もない。体は止まっている。声だけ必死に出す。終わったら怒られる...
北原さんの顔を見ることが出来なかった。
「青山!ちゃんと練習してきたの?次までに踊れるようにしてきて。二回生もちゃんと確認して」
一通り踊るとやっぱり北原さんの声が胸に響いた。
「はい!」
ひきつった笑顔で返事をするけれど、心の中はずたぼろだ。
はる子は覚えが早くて、ダンスも上手くて、うらやましいなあ。
練習が終わって、一回生で片付けをしていると、二回生の瀬川さんと白波さんが声をかけてきた。
「よく練習してると思うよ。青山ならやれると思ってるから言われるんだ。」
とイケメン女子の瀬川さん。
「まあ、傷つくこともあるかもしれないけど、あんま気にせずマイペースにすればいいよ~。」
とおっとり系の白波さん。
ちょっと元気が出た。
練習後は一回生で今日の練習で使ったポンポンなどを片付ける。男の子は太鼓や団旗を片付けるけれど、団旗も太鼓も、応援団にとってめちゃくちゃ大事なものだから、まだ一回生だけでは触らせてもらえないらしい。二回生と一緒に慎重に片付けている。
女の子の方も、初めの何回かは二回生がじっと見ている中で準備や片付けをして、扱い方は細かく教えられた。
応援団にとって、応援に使うものを大切にすることはそれだけ応援にも気持ちが入っているからだと、二回生の人に初めの練習で言われた。
正直言って入ったばかりだからかもしれないけれど、ここまでやることに意味があるとは思えないけれど。
一回生の女の子は比菜とはる子だけ。
練習後は、みんなでご飯に行くときもあるけれど、だいたいは2人で練習のぐちを言い合ったりしながら片付けをして、家の方向が逆になるまで一緒に歩いて帰っていた。
「比菜はいいな。声も高くておっきいし、笑顔が自然。」
はる子がそんなことを言い出した。
比菜は、本気で言ってるのか初め分からなかった。どう見たって、はる子はダンスが上手くて厳しい練習もこなす体力があるし比菜は覚えられなくて怒られてばっかりに思えた。
比菜ははる子を見た。真剣な顔に見えた。でも、比菜は素直に受け入れられなかった。
「はる子に言われてもうれしくない!だって怒られてばっかりなのいっつも私!はる子やってそれ見てるやん!」
はる子にこんなにきつく言ってしまったのは初めてだった。
新歓の飲み会で出会ってから、何回も一緒に飲み会や体験練習やバーベキューなど応援団が開催した新歓イベントに行って、はる子とは大学入って仲良くなった最初の友達だった。
新歓で女の子を増やそうと一緒に声をかけたりしたけれど、結局2人だけになってしまった。入ってからの厳しい練習や上下関係にも、はる子がいてくれたからすぐに諦めようと思わなかった。
比菜は厳しい練習のたびに不安になったけど、はる子は比菜から見るとなんでも平気にこなしているように見えていた。そんなはる子から、自分がいいななんて言われても、比菜ははる子にいいなとしか思ったことがなかったから、理解できなかった。
「あ、ごめん。そっか。そう思われてもしかたないよな。でも、さっきのも本気やで。」
はる子は言いたいことはいっぱいありそうだったけれど、これ以上今言っても比菜を傷つけてしまいそうで、その日は黙って歩いて帰った。
「はい!」
チアリーダーの練習を仕切るチアリーダー長をしている、4回生の北原さんがプレーヤーのボタンを押す。
前奏は両足でかかとを浮かせてリズムを取る。
歌が始まると、全力で声を出しながら踊る。
はる子とあれだけ練習したし、大丈夫なはず。そう思って堂々と踊り出したのに、途中で顔を横に向ける踊りのとき右を見たら、はる子と目が合った。
あ、左右逆だ。
次の瞬間頭が真っ白になって次の踊りが何か分からなくなった。
自分だけ時間が止まる。
周りは踊り続ける。
とりあえず声を出さなくちゃ、気づいて歌い始める。
きりが良いところから入ろうと思うのだけれど、もう今の踊りが何なのか考える余裕もない。体は止まっている。声だけ必死に出す。終わったら怒られる...
北原さんの顔を見ることが出来なかった。
「青山!ちゃんと練習してきたの?次までに踊れるようにしてきて。二回生もちゃんと確認して」
一通り踊るとやっぱり北原さんの声が胸に響いた。
「はい!」
ひきつった笑顔で返事をするけれど、心の中はずたぼろだ。
はる子は覚えが早くて、ダンスも上手くて、うらやましいなあ。
練習が終わって、一回生で片付けをしていると、二回生の瀬川さんと白波さんが声をかけてきた。
「よく練習してると思うよ。青山ならやれると思ってるから言われるんだ。」
とイケメン女子の瀬川さん。
「まあ、傷つくこともあるかもしれないけど、あんま気にせずマイペースにすればいいよ~。」
とおっとり系の白波さん。
ちょっと元気が出た。
練習後は一回生で今日の練習で使ったポンポンなどを片付ける。男の子は太鼓や団旗を片付けるけれど、団旗も太鼓も、応援団にとってめちゃくちゃ大事なものだから、まだ一回生だけでは触らせてもらえないらしい。二回生と一緒に慎重に片付けている。
女の子の方も、初めの何回かは二回生がじっと見ている中で準備や片付けをして、扱い方は細かく教えられた。
応援団にとって、応援に使うものを大切にすることはそれだけ応援にも気持ちが入っているからだと、二回生の人に初めの練習で言われた。
正直言って入ったばかりだからかもしれないけれど、ここまでやることに意味があるとは思えないけれど。
一回生の女の子は比菜とはる子だけ。
練習後は、みんなでご飯に行くときもあるけれど、だいたいは2人で練習のぐちを言い合ったりしながら片付けをして、家の方向が逆になるまで一緒に歩いて帰っていた。
「比菜はいいな。声も高くておっきいし、笑顔が自然。」
はる子がそんなことを言い出した。
比菜は、本気で言ってるのか初め分からなかった。どう見たって、はる子はダンスが上手くて厳しい練習もこなす体力があるし比菜は覚えられなくて怒られてばっかりに思えた。
比菜ははる子を見た。真剣な顔に見えた。でも、比菜は素直に受け入れられなかった。
「はる子に言われてもうれしくない!だって怒られてばっかりなのいっつも私!はる子やってそれ見てるやん!」
はる子にこんなにきつく言ってしまったのは初めてだった。
新歓の飲み会で出会ってから、何回も一緒に飲み会や体験練習やバーベキューなど応援団が開催した新歓イベントに行って、はる子とは大学入って仲良くなった最初の友達だった。
新歓で女の子を増やそうと一緒に声をかけたりしたけれど、結局2人だけになってしまった。入ってからの厳しい練習や上下関係にも、はる子がいてくれたからすぐに諦めようと思わなかった。
比菜は厳しい練習のたびに不安になったけど、はる子は比菜から見るとなんでも平気にこなしているように見えていた。そんなはる子から、自分がいいななんて言われても、比菜ははる子にいいなとしか思ったことがなかったから、理解できなかった。
「あ、ごめん。そっか。そう思われてもしかたないよな。でも、さっきのも本気やで。」
はる子は言いたいことはいっぱいありそうだったけれど、これ以上今言っても比菜を傷つけてしまいそうで、その日は黙って歩いて帰った。