YELL
比菜たちが通う青空大学では、応援団で学ランを着ているのは男だけである。応援団の中には、学ランを来て押忍!というリーダーという役割と、コスチュームを来て、ポンポンを持って踊る、チアリーダーがある。比菜たちはチアリーダーだ。他の大学では女の子が学ランを着ているところもあるみたいだが、青空大学ではまだリーダーを希望する女の子は今までいないらしい。でも、チアリーダーといっても、競技チアといってチアリーダーの大会に出場するようなものとは違い、基本的には部活の応援に行くための練習をしている、応援団チアというくくりだ。

チアリーダーの見せ場に、スタンツという組み技がある。人の上に人が乗ったり、人を投げたりする、華やかな技だ。競技チアほど、スタンツに力は入れていないけれど、比菜たちの応援団も、アメリカンフットボールの試合でハーフタイムショーを踊ったり、ステージをしたりするので、スタンツは練習している。

スタンツは、上に乗るトップ、下で乗せるベース、支えるスポッターの3つの役割があり、それぞれの人数はスタンツの規模によってさまざまだ。

比菜は、小柄なので、基本的にはトップを任されることになった。
はる子は身長が高いが細身なので、基本的にはスポッターを任されることになった。

今日は、エレベーターというスタンツに挑戦することになった。

二回生の人がそれぞれの役割におけるやり方を説明してくれる。三回生と二回生が、お手本を見せてくれる。

「お願いします」
トップの吉田さんの高い、気持ちのこもった声が響く。
「お願いします」
ベースの瀬川さん、白波さん、スポッターの三葉さんが声を合わせる。心が一つになっている感じがした。
「せーの、ワン、ツー、ダウン、アップ!」
スポッターの三葉さんの声に合わせ、吉田さんが一瞬でベースの手の上に乗り、ピンと立つ。

あまりのスムーズさに、比菜もはる子も見とれてしまった。

こんなの、私たちにできるのかな...

「じゃあやってみようか!回り、しっかりついて。」

北原さんが言う。
「は、はい!」
比菜もはる子も見とれていたので、自分の役割の人がどんな動きをしているかなんてきちんと見られていなかった。

はる子を見ると、目がキラキラしていた。はる子は、心からチアリーダーに憧れて入ったもんね...
だめだ、今はそんなことを考えている場合ではない。私も吉田さんのように、ピンと上に上がりたい。
気持ちを振り払って、早速エレベーターの練習に入った。

「今日は、どんな感じになるのかやってみるって感じだから、きれいさにこだわらなくて良いよ。感覚を味わってみよう。」
北原さんのきびきびした声。

はじめは飛び乗る感じの練習。次は、上には上がらず、ベースの手の上に乗って止まる。ベースの手はまだ腰ぐらいの高さなのに、落ちたらどうしよう、という不安を比菜は感じた。
何度かその高さで練習した後、
「じゃあ、一回上げてみよう。前と後ろと人付いて。」

北原さんの合図で、4人が比菜たちのエレベーターの準備の回りに集まった。もし、比菜が落ちそうになったら、回りについた人がすかさずキャッチしに行くのだ。スタンツは、スタンツに直接関わる人はもちろんのこと、回りの付いてくれる人も含めてみんなの信頼がないと成り立たない。

心を落ち着ける。

「お願いします!」
「お願いします!」
「せーの、ワン、ツー、ダウン、アップ!」
地面を蹴り上げ、体全体を持ち上げてジャンプし、ベースの手に着地。後はスポッターとベースが上げてくれるから、体幹に力を入れてピンと立ち、上げやすくする。

フワッと浮いて、一気に視界が高くなった。なんて快感!

次の瞬間、視界が歪んで真っ暗になった。

落ちる!

そう思った瞬間、誰かにキャッチされていた。北原さんだった。

「すみません!!」

はる子の声。足を滑らせたらしい。
「青山大丈夫?」
北原さんに聞かれ、北原さんが支えてくれたので痛くもなく、むしろ北原さんが大丈夫だったのかと思ったけれど聞けなかった。
「はい!」

はる子はすごく申し訳なさそうだったが、滑らしてせたのは仕方ないと思った。恐怖はあったけれど。

「スタンツに、すみませんはなし。みんな本気でやらないと成り立たないものだから、失敗だってわざとやるわけないやろ。」

北原さんが言った。

「すみません。」
はる子は涙を浮かべていた。



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