星降る夜に。
「私が先に彼の体にキスマークをつけたの。それから彼が胸に一つつけた。これが精一杯だって言って…。私は体中だって欲しかったから、そう言った。抱かれる度に増えていったの」



大輔さんの体にはまだ残っているのかな。

私は彼に抱かれる余韻が消えるまでは、自分は彼のものだとあの夜思った。

だけどそうじゃない。


今この瞬間だって私は大輔さんが好きで、心の中から出て行かない。



「私は実家を守りたかった。守らなきゃいけないと思った。両親はもちろん、姉たち、工場で働いてくれている人たち…。路頭に迷わせたくなかった。誠さんは優しいし、ご両親も私を可愛がってくれる。こんなに恵まれることなんてないと思う。だけど好きになってしまった、彼を」



どうして好きになったんだろう。理由なんてない。ただ、どうしようもなく惹かれた。


私は自分の左手の薬指から婚約指輪を外した。キラキラ輝くダイヤモンド。
私の未来はやっぱこの指輪のようにはなれない。

誠さんに差し出すと、彼は目を見開いた。




「これはお返しします」


「…ふざけるな!」



バチン、と乾いた音がやけに大きく耳にこだまする。一瞬何が起きたのか分からなかった。
けれどすぐに自分の右頬がヒリヒリしていることに気づく。
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