星降る夜に。
誠さんが帰ったあとで名刺を覗き込んできたみのりは大声を上げた。


高城出版は業界大手で、ベストセラーをいくつも出している。
だけど誠さんの名刺には“営業部”と書かれていた。



「まさか。偶然じゃない?同じ名字ってこともあり得るでしょ」


「でも偶然とは思えないけど…。莉子、連絡してみなさいよ。この人が高城出版の息子なら、あんたのお父さんの工場、助けてくれるんじゃない?」


「そんな動機で連絡しないよ…」



ただでさえ恋愛から遠ざかっていた私は、誠さんの言葉を気にしつつも連絡が出来なくて、メールをしたのは一週間くらい経ってからだった。なかなか連絡しなかったことに対する謝罪と、携帯の番号を記しただけの簡単なメール。

するとすぐに電話がかかってきて一言、「待ちくたびれた」と言われた。



それから誠さんは頻繁に連絡をくれたり、食事に誘ってくれたりしたけど、私は恋愛感情にならなかった。


だけど事態は一気に変わってしまう。
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