ためらうよりも、早く。
「まあ結局、俺は特別ってことで許すよ」
「気に食わない」
「お互いさまだ。
あ、そういえば、いつだっけ?のんが尭の頭にロブスター飛ばしたのって」
尖った態度で突き放したつもりが丸め込まれてしまう。宥めるような笑みで受け流すところも、昔から変わらない。
「……あれは、のんが高等部に進学したお祝いの時ね。
のんはまだナイフの扱い方が苦手で、ちょっと力を込めたのが理由よ。で、ロブスターの半身が、向かいに座ってた尭の頭にダイブしたの。
おまけに、慌てて席を立った弾みで尭のグラスまで倒したから、もう悲惨だったわ。
あの時の尭の顔、覚えてない?……あの日以上に、動揺した傑作顔は拝めなくて残念よ」
「ああ、尭もあの頃は今よりずっと尖ってたしなぁ」
「可愛い反抗期ってヤツよ。
目つきの悪さと憎たらしさは今も引きずってるけれど」
「褒めてるんだか貶してるんだか」
「可愛さ余って憎さ“千倍”よ」
話しながら情景は昨日のことのように浮かび、フフッと笑いながらグラスを傾けた。