ためらうよりも、早く。
さすがに仕事の合間を縫っての食事のため、私たちのグラスの中身はほどよく冷えたお水。
向かいの風船男もまた、半分ほど入っていたグラスの水を飲み干して軽快に笑っている。
「のんは、ごめん許して助けてー!って、俺と柚希の背中に隠れて半泣きだったし」
「その一件で、尭への苦手意識が急上昇したらしいわ」
「ああ、しばらく余計に避けてた」
「あからさま過ぎて、さすがに尭が気の毒だったわ。
そう言っても結局、見守ることしか出来なかったけれど」
「——だから、のんが入社する時に尭に預けたんだろ?」
「いいえ、それはないわ。私的感情を多分に含んで人事を発令させたのも、業務遂行に最適だったからよ。
のんと尭の仲がどうであろうと仕事には関係ないもの」
納得していないような真っ黒な瞳を見据え、私は淀みなく言った。これは噓偽りないから。
「なら、そういうことにしとく。
——気遣いある柚ちゃんに可愛がられて素直に育ったし。姉の意見は絶対だ」
「当たり前よ。血を分けた大事な家族を愛でない理由はないわ。違う?」
「あー、俺も妹が欲しかったなぁ」
「生意気な実弟の返り討ちに遭えば?」