ためらうよりも、早く。
アパレル業界で名の知れた社長からの問いに、私は静かに顔を上げる。
やはり声の通りに、今はすっかり威厳を失った父と視線が重なった。
言葉を選んだ結果が先ほどのものだったのだろう。今も困惑の色を見せているので、私は小さく笑って頷いた。
「ええ、素面だから頭を下げられるの。それだけ本気ってことよ。
私は明後日から中国だし、社長もその間にミラノに飛んじゃうでしょ?
仕事の話じゃなくて申し訳ないけれど、機を逸する前にと思ってね。
ほら、私の結婚……ずっと願っていたじゃない。――お願いだから、出来るだけ早くして欲しいの」
弱みにつけ込むとはひどい娘だと自覚していたけれど、ここが最後の砦だった。
——祐史に結婚宣言をした私が逃げられる場所なんて、もう何処にもナイから。
最も縁遠いとまで言い続けてきた娘の突然の変化に、思うところはあるのだろう。
本音を探るような眼差しを向けられたが、それもほんの一瞬。
無言を貫く私に根負けしたように、父は小さく息を吐いた。
「分かった。私に任せなさい。——異論はないね?」
「もちろん。親(パパ)が認める方なら」