ためらうよりも、早く。


「そうか」と納得したように頷く父に、もう一度頭を下げてから部屋をあとにした。


専務室へと戻る最中、真意を聞かれなかったことに些かホッとしたのも事実。


敢えて階段を使って階下に降りる間に、スマホに残っていた男のアドレスを全件削除し、潔くすべてを終えた。



――こうして見合い相手が決まったと父が連絡をくれたのは、その夜のことだった。



予想以上に素早い対応に多少は驚いたものの、まさに渡りに船。


連絡を受けた際に、“相手の情報は不要”と伝えてあったため、顔どころか名前すら知らされていない。


父のセンスに委ねた博打を周囲が知れば、あまりに馬鹿げた行為にしか思わないだろう。


でも、本当にドウデモイイ。元々が結婚に夢なんか持っていないし、これくらい気軽に進んだ方が私らしいから。



肩書きや気の強い性格も手伝ってか、出会う人たちからは“自立したイイ女”と常々言われてきたけれど。


しかしながら当の本人からすると、ドジな妹の方が今ははるかに自立していると思う。



“相手をひとりに絞りなさい”

こんな数々の攻撃をねじ伏せてきたつもりだったのに。結果としてその甘い誘いに負け、滑落したようなものじゃないかと。


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