ためらうよりも、早く。
だからなのか、色々なものが込み上げてくる今、顔を覆って泣く私がいた。
すると直ぐに、上からギュッと包まれるように、あたたかい胸に支えられる。
「遅くなってごめん。傷つけることしか出来なくてごめん。
汚名返上なんかどうでも良い。過去は確かに色々あった、いや、俺が悪い。
でも、これからは柚希を守ることだけを考えて生きていきたい。……その、ダメ、ですか?」
たまにはらしい事を言うじゃない、と歓心したのに。肝心なラストでへたれ度合いを披露され、思わず腕の中から顔を覘かせた。
「な、んで、最後が、尻込みした疑問形なのよ?」
「その、……振られるかも、と」
グスッと鼻を啜りながら涙も豪快に拭くと、はあと盛大な溜め息を吐き出した。
視線を彷徨わせてたじろぐ祐史の締まりのなさに、「正真正銘のバカね」とイラッとくるのは当然だ。
「でも、私も同罪よ。バカ同士諦めも肝心よね。……私も色々、ごめんなさい。
まっ、汚名返上したければ、傍で見張ってあげるわよ?
首根っこに縄つけて操るのも、ちょっとした鵜匠気分を味わえて面白そうだしね」
くすり、と不敵に笑ってみせる。しかし、それを聞いた途端、ペロリと温かい舌が頬を舐めた。
「何すんのよ!」
「たった今、柚ちゃん(飼い主)が決まって、天にも昇りそうなほど幸せな犬?」
その表情は、いつもの何を考えているのか分からない昔馴染みでも、頭の良さを発揮して経営サポートをするビジネスマンでもない。
ただただ、私に真っ直ぐな愛情を向ける祐史が確かにいた。
嬉々とした真っ黒な瞳に映る私の顔も、発狂とは裏腹に頬が緩んでいる有り様だ。