ためらうよりも、早く。


これまで散々傷つけられたし、ひどく傷つけてもきた。それは変えようのない事実である。


同時に、私は利己のために色んな人を巻き込んで、知らないままその人たちを悲しませていた。


愛情の意味をもっと早く理解出来ていれば、巻き込むこともそんな思いもさせずに済んだのに。


さっき、“贖罪”とこの男は口にしたが、それは私にもいえることなのだ。


結果良ければすべてよし、なんてとんでもない。これまでを帳消しになど出来ないのだから。


運命なんてものは信じないが、もし私たちが運命共同体であるのなら、回り道をし過ぎだろう。


でも、今となってはおあいこ。だって過去は変わらないし、その時へと戻るのも叶わない。


ならば、もうこの腕に捕まってしまおう。逃げて追うことに疲れた者同士、譲歩をしようか。



こうしてツラツラと経過を辿れるようになるまでに、本当ーに長い時間を要したのが恥ずかしいけれども。


だからこそ、言わせて欲しい。——触れて改めて感じることがある。


……この男だけには奥底から欲が湧いて止まらない、と。


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