ためらうよりも、早く。
すると腕の拘束を解いて私から離れ、おもむろに立ち上がった祐史。
つられるようにデスクの端を退いたその時、それまで見上げていた筈の男が突如、目の前で両膝をついてしまう。
思いもよらない行動にギョッとする私の両手を大きな手でそれぞれ掴むと、まるで包むように優しく握られた。
瞠目しながら固まる私に向けられているのは、柔らかな笑みと暗闇のような色をした双眸のみ。
身長差からも、この男に見上げられることなんて滅多に、ううん……未だ嘗てない。これは何なの……?
歪な有り様に呆然とする私を、フッと一笑して見上げる眼差しはどこまでもあたたかい。
「俺たち、今まで遠回りしすぎた。
きっと、気持ちを伝える場面だって何度もあった筈だ。いや、あり過ぎて麻痺してたんだな。
でも、チャンスを見逃し続けて、たくさん傷つけて泣かせて、本当にごめん……。
ただ、ここで過去を憂いてももう遅いし、変えることは出来ない。
それに多分、今だからこそこうして向き合えるようになれたとも思ってる。いや、それまで凄い格闘して怖じ気づいたりもしてたけどさ。
やっぱり、ためらうより早く、伝えるべきだったね。
——これからは一緒に高め合って、幸せになろうよ?柚希、愛してる。だから……、俺と、結婚して下さい」
俄かに震えた声と熱を潜めた眼差しで紡がれたのは、祐史の本音と本気のプロポーズであった。