ためらうよりも、早く。


ただし、この状況についていけない私がいた。


しかし、はっきりと言えることがある。


それは頑丈かつ鉄壁に構築してきた、牙城(バリケード)を破壊するには十分の威力を備えていたこと。


ゆえに、枷の取り払われた丸腰の私には、ただコクコクと頷く道しか残されていない。


つまりは、昔馴染みからの結婚の申し込みに対して、潔くイエスを返したのである。


けれど、もう泣かない。にっこり微笑んだ私はその手を優しく解くように告げる。


「柚希?」と、そのままの姿勢で首を傾げる彼から視線を逸らさずに。


直後に大きく片手を振り翳すと、そのままシミひとつない綺麗な頬を躊躇いなく打った。


刹那、パシンと乾いた音が室内に小気味よく響き渡っていた。


唐突なビンタに遭った祐史は、「ってぇ」と声を漏らして顔を顰めている。


既にうっすらと赤くなっている頬も、冷やさなければ明日は少し腫れるかもしれない。


女の力といっても、私の場合はボクササイズの経験者。プロから教わっている分、殴り方を心得てもいる。


ゆえに手加減なしのビンタをくらえば痛いことくらい、承知の上よ。これまでの行いの天誅だ、ざまあみろ。


< 195 / 208 >

この作品をシェア

pagetop