ためらうよりも、早く。
ただし、この状況についていけない私がいた。
しかし、はっきりと言えることがある。
それは頑丈かつ鉄壁に構築してきた、牙城(バリケード)を破壊するには十分の威力を備えていたこと。
ゆえに、枷の取り払われた丸腰の私には、ただコクコクと頷く道しか残されていない。
つまりは、昔馴染みからの結婚の申し込みに対して、潔くイエスを返したのである。
けれど、もう泣かない。にっこり微笑んだ私はその手を優しく解くように告げる。
「柚希?」と、そのままの姿勢で首を傾げる彼から視線を逸らさずに。
直後に大きく片手を振り翳すと、そのままシミひとつない綺麗な頬を躊躇いなく打った。
刹那、パシンと乾いた音が室内に小気味よく響き渡っていた。
唐突なビンタに遭った祐史は、「ってぇ」と声を漏らして顔を顰めている。
既にうっすらと赤くなっている頬も、冷やさなければ明日は少し腫れるかもしれない。
女の力といっても、私の場合はボクササイズの経験者。プロから教わっている分、殴り方を心得てもいる。
ゆえに手加減なしのビンタをくらえば痛いことくらい、承知の上よ。これまでの行いの天誅だ、ざまあみろ。