ためらうよりも、早く。
こちらをポカンと見つめる男の顔には、行動の意味が理解出来ていないのが見て取れる。
——ああ、マッカラン片手に愉悦に浸りたい光景だわ!愉快愉快!
つまるところ、性格の歪んだ私は沸き立つ感情を包み隠さず、嫌味ったらしく笑ってみせた。
「私って、事実を素直に受け入れるほど可愛くない女なの。シナリオ通りに進まなくてごめんなさいね?」
クスリ、ともう一度笑うと曖昧な表情をする祐史。……どうやら風船男の台本はここでお役御免のようだ。
「昨日はもう言わないっていったけれど、……ダメ、やっぱり言わなきゃ。
……今までどれだけ我慢して、どれだけ傷ついたと思ってるの?
——欲しい言葉は、いつも使い捨てじゃない。あれじゃ信じられる訳ないっ!」
「柚希……それは違う」
「シャボン玉の意味、気づいてないみたいだから教えてあげる。
——女のところで泡となって消えろ、よ」
「おっと……、そうか」
「言葉通りの行動をしてたんだもの、納得でしょ?」
歓喜の奥底から沸き立つものは、もう涙じゃない。——今まで、封じていた本音だった。