ためらうよりも、早く。


ともあれ、S気質だが鬼畜ではないのでここで打ち止め。——解放する前に、唇をひと舐めするくらいの仕返しはしておくが。


「女に二言はない」と、淡々と告げた瞬間、今度は私はヤツの腕に再び囚われてしまった。


「やった!やった!」

祐史はまるで子どもの頃に戻ったかのように、嬉しさ全開の声を上げて喜んでいる。



婚活に勤しむ女子の間では、最高物件とまでいわれる男。

高収入かつ3男坊で跡継ぎ云々の心配はない。

さらにスタイルも良くて、クールな顔立ちで女性にとっても優しい、とかなんとか。

のんにそれを聞かされた時は、鼻で笑ってやったが。それがどうだ。今のこの態度を見て、世の女性は結婚したいと懇願するかしら……?


これを世間では、ギャップ萌えって言うの?……悪いが、ちっとも萌えないぞ。


そんなことより、こんなに振り幅の大きいヤツの飼育方法を教えて欲しいものだ。



なおも強い力で抱き締められ、意外と鍛えている胸めがけて私の顔が埋まっていく。——ちょっと待って、いつもより厚い化粧が擦れて取れるじゃない……!


「は、な、せぇええ!」と暴れるが、余計に力を強められて苦しくなったので早々に諦めた。


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