ためらうよりも、早く。
「やだ。一度は捕獲してみすみす逃がした特別天然記念物を、やっとの思い出捕まえたのに」
さらに力が強まり、頬とスーツ生地の仲が余計に密になる。
——この男のスーツに、ファンデもろもろがべっとり付着しようが知ったことか。
「アホウドリはアンタの方でしょうが!」
「あ、そっか。柚ちゃんは絶滅危惧種だったな。
昔から、ブリザード地域に生息する無敵の女王だもんね」
「は?つまりホッキョクグマって言いたいワケ?」
「体型は全然違うでしょ?でも、お尻は触り心地最高だよね。ふわっふわ」
そう言いながら、片方の腕を滑らせた男の手がお尻をギュッとひと揉みしていった。
イラッときた私は膝蹴りをかまして、ようやく魔の手から離れることに成功する。
不意に弁慶の泣き所を蹴られた男といえば、顔を顰めながらまだ嬉しそうに笑っている。
デレデレもしくはニヤニヤとした薄気味悪い表情を前に、イラッとするのも当然だろう。
くっそ……恩情なんて掛けず、さっさと男の急所を狙えば良かった。