ためらうよりも、早く。
いつしか頬から離れていた手は、私の敏感な箇所を緩急を持って触れていく。
睨みつけるのが逆効果だと分かっていても、男に攻め立てられてばかりいるのは私の意に反する。
それを知り得て甚振るこの男は、結局のところドMを装った超級のドSであろう……。
「——名残惜しいけど、今はここまで。欲情した顔、ほんとそそるね」
「……東条社長に連絡して、今すぐロンドン支社に飛ばしてやる」
熱い吐息を漏らす私は、デスクの上で少々乱れた衣服を整えながら忌まわしげに言う。
ボクシングでいえば、第8Rまで差し掛かったところでレフェリーにストップを言い渡されたようなこの状況。
取り敢えず、何だろうこのいい知れぬ屈辱感は……!
それは間違いなく、「おー、こわいこわい」と一笑してネクタイを締め直している男のせいだ。
まずはデスク上を片すのが先決、とそこからは無言で少々乱れてしまった机上を整頓する。
その間、待っていると言って聞かない男は、ソファで座ってこちらに熱い視線を寄越し続けていた。
うざい、と何度言っても止めないヤツを相手にしていたら夜が明けてしまう。
いつも以上にてきぱきと行動し、出張に必要な書類などを確認してバッグに押し込む。
するとヤツもシカッティングに諦めたのか、スマホを操作し始めたのでそのまま放置しておいた。