ためらうよりも、早く。
火災報知器が作動する前に、不器用な男の必死な懇願に負けてしまった自分が非常に情けない。
「チッ!スカイツリーからバンジーさせたくなった」
「鵜匠の柚希も道連れなら良いよ」
人の発言をここで皮肉るイイ性格をした相手に、「風船男のクセに!」と肩口をグーパンチする。
「そうそう、風船はいつかは空気がなくなって萎むだろ?
だったら俺は、照準定めて見事に大好きな柚希ちゃんのところに舞い落ちたってことになるんじゃね?」
「う、うざっ!しかも、きっしょい!」
男の前では女王さまとして君臨してきた私、なのに、昔から唯一敵わなかった男が本命なんてじつに厄介なものだ。
「うん、何とでも言っていいよ。
柚ちゃんがもう我慢しないで生きられるように、ずっとそばで支えていたいからね。
つーかね、あの拓海の傍にいると甘ーい言葉にも耐性出来ちゃうんだよねぇ。
アイツの蘭ちゃん溺愛っぷりは半端ねえもん。分かるでしょ?」
「あのねえ!あれは東条社長と蘭さんだから許されるの!
天と地がひっくり返ってもアンタには似合わないのよ!私も勘弁よ!」
「それなら、今から俺を柚ちゃん色に仕立ていってよ?それもまた一興だ」