ためらうよりも、早く。


「……だったら先ず、今から私だけを愛し抜け」

「それはもう出来てるよ。
——でも、ダイヤモンドみたく、愛情の原石はもっともっと丁寧に磨き上げる余地はあるから、ふたりで頑張ろっか?」


見合い相手だったこの男は昔馴染みかつ元彼、というあまりに不可思議な状況だというのに。


自分には似合わないはずの甘い誘惑を前に、嬉しいと感じている私は頭のネジ一本が行方不明かもしれない。



決して、万人に受け入れられるような筋道ではない。それでも、結婚したいと思うこの相手と気持ちを逃したくない。


さまざまな失敗をしてひどく後悔したし、逃げることを覚えてそれを続けてきた過去がある。


だけれど、いつまでも昔に囚われていてもいけない。大事なものを失う辛さを知っているから、なおそう思えるのだろう。



色々な経験を重ねて大人になった、けれども本当の意味で大人にはなりきれていなかった私たち。


じつにくだらない遠回りをした。回らなくて良い道を選んだせいで、色んな人に迷惑をかけてきた。


——けれど、ターニングポイントでぶつかり合って、周囲の優しさに数えきれないほど感謝をした。


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