ためらうよりも、早く。

流されるようにひとりエレベーターに押し込められたため、仕方なく応接室まで向かったのだが、予めちゃんと聞けば良かった。



「あ、お疲れ？大丈夫？——柚ちゃん」

私にとって、ハイヒールは仕事のモチベーションを支えるひとつ。


それがこんな男に動揺させられ、ふらつく一因になるとはルブタンに申し訳ない。


「ソレで呼ぶな」

「かーわいい」

こんな男が待っていると分かった時点で、福岡から全力で脱出していたというのに。


「警備員呼んで差し上げましょうか？」

「はいはい、仕事中に悪いね。でも、ずーっと会いたかったんだ」

「私は１ミリたりとも思わない。というか、会う義理もないわ」

鬱陶しい口調に苛立って先ほどより強い舌打ちを返す私にニヤリと、してやったり顔をみせた。



「突然現れて一体なに？——祐史」