ためらうよりも、早く。


対峙すると、170センチ超あって背が高い私も見上げなければならない。


それでも温和そうでいて腹黒さ満点の男の顔は、やっぱり今日も考えも読めず苛立ちだけが増した。


昔からこの微笑で、周りの女をはじめ大人たちをも上手く丸め込んで来た。ある意味、その芸当は素晴らしいと賞賛しておくべきか。


——この桜井 祐史という人は、その華やかな経歴に一度会ったら忘れないインパクトも備えている。



さらさらの茶色の髪や男のクセに綺麗な肌質をしているのは、素直に羨ましく思っていた。


そして、アパレルの世界に身を置く尭以上にお洒落にこだわりがあって、ひとクセあるスーツも難なく自分流に着こなしているし。


コレクションしているという腕時計も、流行りを追わず自分のスタイルに合う高級品を揃えるあたり、とかくセンスがあるのだろう。


その性格は万人に優しいとみせかけ、実は一度怒らせると私以上に性質が悪い。頭が良すぎる分、余計に。


ちなみに女関係にはムダがなく、まるで風船みたいに次の地を求めてふわふわ飛んでいくから、かつて私が“風船男”と命名したのだ。


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