ためらうよりも、早く。


この男について、ここまで事細かに答えられる自分が忌ま忌ましい。


つくづく、昔馴染みなんて枠組みが鬱陶しく思うほどに……。



「……どうして此処にいるわけ?
あんたの本業は“社長の何でも屋”であって、アパレルとは無縁のはずだけど」

読み取れない目的に苛立ちを覚えていたせいか、吐き出した言葉はじつに刺々しいものだった。


すると、目の前から伸びてきた手に腕を取られてしまう。


唐突なそれにはビクッと身じろぎしたものの、必死で声を抑えた自分に少し拍手をしたい。


まるで紫色の七分袖のシフォン・トップスの素材を確かめるように、腕に置かれたその手は肩に移動し、下へと滑るように手首まで落ちていった。


さすが風船男。——一連の所作は手慣れたものだと感心する。


指先の感覚が少しくすぐったいけれど、こんなもので動揺するほど伊達にセフレが多くはない。


呆れた顔で男を見上げたところ、こちらの反応を楽しむように、今度はキュッと手を握られた。


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