ためらうよりも、早く。


軽口を叩く男に昔から苛つくばかりで、それを悟られないように悪態をつくのが常だった。それで自らを守る盾にしていた節もあるが。


「柚ちゃんさ、着拒否はやめようよ?心配したじゃん」

「……何で?」


ためらうように尋ねた私に、「——好きだから」と祐史はあっさり吐き捨てた。一切、悪びれることなく。



表面上は昔と変わらない関係。でも、それは一度破綻し、つぎはぎだらけで維持している。


小さなほころびが出来る度に繕って、これ以上は破れないように気をつけながら接していた。


これは死ぬまで変わらないはずだったのに。最近になって私は、彼の吐いた安くてありきたりなフレーズに見事呑まれてしまった。


会わなくても別段、寂しいとは思わないほどに距離は遠ざかっていた。それなのに会った途端に、心動かされる相手なんかいらないのに。


あの夜だってそうだ。困惑する私を呆気なく組み敷くと、「やっと堕ちた」なんて囁いて微笑む男が恨めしかった。


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