ためらうよりも、早く。
さすがに娘には言いづらそうに口にしているけれど、私の方はいたって冷静だった。
「ありえない。何でセフレを切らなきゃいけないの?
人格も相性も選りすぐった最高の男とヤれなきゃ仕事になんない。
あ、そうね。お父さんが職務放棄しても良いって言うのなら、こちらも考えてみても良いけれど?どうするの?」
「お、おま……、父親を脅す気か?」
「ん?違うわよ。脅しじゃなくて交渉じゃない。もちろん、あえて極論を述べただけ。
——でも、私のセックス・ライフは仕事に直結しているし、頑として譲らないけどね」
ブラックコーヒーを啜りながらしれっと答えているのが、私こと朝比奈 柚希(アサヒナ・ユズキ)。
もうすぐ29歳の誕生日を迎えるけれど、十把一絡げのアラサーなんてフレーズは口にしないとこだわる女でもある。
「——ゴホゴホッ!」
「のん、はしたないわね」
すっかり覇気をなくした父に代わって、今度は隣の席でミルクティーを思いきり噴き出し、苦しそうに咽せる子に声を掛けた。