ためらうよりも、早く。


ルブタンの靴の疲労度も厭わずに歩き続け、ついに到着した目的のところはその建物の地下にある。


エントランスの脇に設けられた階段を降りると、微かな明かりを頼りに奥を行けば木目調のドアが構えていた。


掛かった小さなプレートが営業中を示しており、少し安堵しながらそのドアをゆっくり前に押した。


今日もその扉の向こうに広がるのは、黒と茶色を基調としたシックな空間である。


「いらっしゃいませ」

掛けられた声に微笑を返すと、よく座る隅のカウンター席が空いていたのでそこに落ち着いた。


こうして訪れたこのお店は、シックかつ優美な雰囲気に包まれたバーである。


小さなテーブル席が数席に、ゆとりあるカウンター席とで構成された店内は広くはないが、それが隠れ家のような特別感を醸し出しているよう。


また、随所にこだわりの感じられる家具やグラスの数々に、高級スピーカーから優しく流れる音楽と、目に留まるすべてにセンスが光る。


どれもお洒落すぎず、古すぎず、そのバランスが絶妙だから、いつ来ても落ち着くのだろう。


この空間で提供されるお酒については、言うまでもなく素晴らしい。保管状態は当然のこと、最も美味しい飲み方を教えてくれるのだ。


定番のカクテルをはじめ、有名どころや国内外の美酒はもちろん、幻と呼ばれる逸品まで、ありとあらゆるものが取り揃えられている。


初めて訪れた時の感動と胸の高鳴りはよく覚えている。……これぞ追い求めてきたアルコールの楽園ではないか、と。


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