ためらうよりも、早く。
様々なこだわりからも分かるように、ここは常連や女性ひとりでも静かにじっくりお酒を楽しめる大人のためのお店だ。
そして最後に、このお店で忘れてならないのが、一番の高評価を与えるべき存在である。
それこそが、穏やかな笑みを浮かべてカウンター越しに私の元へやって来た、爽やかな笑顔を浮かべた素晴らしくイイ男なのだ。
「柚希ちゃん、久しぶりだね」
「ええ、久しぶりですよね。なかなか時間取れなかったの。
やっぱりいつ見ても超絶素敵。——煌くんは」
「それはどうも。でも、柚希ちゃんの色気には敵わないな」
「ふふっ、よく言うわ。
私がリップサービスより新酒に目がないコト、よーく知ってるでしょ?」
「ええ、それはよく存じていますよ」
バーテン・スタイルを程よく着崩し、それでいて清潔感たっぷりな佇まい。その見た目に囚われがちだが、マニア以上にお酒に精通している彼。
しかし、どの発言にも一切嫌味はなく、客との距離感を絶妙に取れるのは天性のもの。……ぜひ、当社の従業員たちにご教授頂きたいわ。
「では、今日はどうしますか?」
こうして、私たちお客の心を掴んで離さないイイ男こそ、このお店のマスターを務める煌(コウ)くんその人だ。