ためらうよりも、早く。


「心がどす黒くなっていたから、本当ーに癒されるわ。
これで目の消毒も完了出来たし、素敵な滅菌力をありがと」

「俺、マキロン的な扱いなの?」

「それくらい女の子の目の保養になるってコトかしら」

私よりも年上の彼だけれど、素敵なモノは敬意など抜きに褒めるべき。それこそマナーだと思う。


「さすが芸術系思考の柚希ちゃん。——そんな女性の本日のご所望は?」

「今日は……、酔えるくらいとびきり強いお酒で」

そんなベタ惚れのお店にはオープン当時から通っており、常連のひとりだろう。

「珍しいオーダーだね」

女性客を虜にする笑顔で言われた瞬間、自嘲笑いを浮かべながら頬杖をつく私。


「男に溺れたくないの」

この言葉で彼が少し目を丸くしたように、酒愛好家の私は常に銘柄をイチイチ指して注文していた。


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