ためらうよりも、早く。
今まで自覚はなかったが、私も単細胞ではないかと気づく。のんよりは幾分マシであっても、大概あの父と同じだと自嘲するばかり。
そして、2杯目は彼のアドバイス通り、大好きなマッカランを注文することにした。
提供されたグラスに浮かぶ丸く透明な氷を眺めながら、甘みある銘酒をゆっくりと味わう。
結局オーダーとは反対に、酒豪は全く酔えずに時間が刻々と過ぎていくだけ。
冷静になるにつれて、風船男が絡むと我を忘れてしまう事実に直面する。その度に溜め息を吐いても、恥ずかしさと虚しさは消えない。
アイツが結婚しようがしまいが私には1ミリも関係ない話。……だというのに、脳内から排除しようと足掻くほど深みに塡まるなんて。
結婚のフレーズを口にした時の祐史の顔を、私は今後も事あるごとに思い出すのだろうか?
彼の真っ直ぐな視線を最後まで逸らさなかったのは、……今も消えない思いを欺くためで。
流れで結婚相手を聞けば、“ひと言で言えないくらい、極上な子だよ”と笑顔で惚気られた。
“極上の女がアンタに捕まったとか御愁傷様ね”と、おめでとうも言わなかった私は最低だ。