ためらうよりも、早く。
「会いたかった」
穏やかな口調で言ってくれる彼は、私の1つ上で身体を重ねる相手のひとり。
「セフレでも構わない」と笑顔で誘いを受け始まったこの関係は、既に2年が経過している。
「ふふ、その割には女の影を感じるわ。
アッチでも楽しんでたみたい。違う?」
「楽しんでたのは仕事だよ」と苦笑する彼に、どの口が言えると先ほどの発言を叱咤しながら。
日本人の母親とフランス系アメリカ人の父親との間に生まれた絢は、お父様の経営するIT事業を継承中ゆえに多忙。
本社のあるアメリカのニューヨークと現在支社長を務める日本を度々往復しつつ、世界各地にある支社にも赴く日々だ。
ちなみに出会いのはこのホテル。ラウンジの上客を父に持つ友人とふたりで飲んでいる時、絢から声を掛けられたのがきっかけだった。
互いの都合上、会う回数は限られていても、2人きりになると彼はまるで壊れ物のように丁寧に扱ってくれる。……弱くもない私を。
経験からいうと、生まれながらにトップであることを約束された人種には珍しい。だから、ここまで優しい彼が独身を貫いているのは不思議でならない。
そこへ再び声が掛けられてカーテンが開き、注文したお酒がテーブルに置かれた。
バーテンダーが去ったのち、彼の腕に手を添えるとあっけなく解かれて私は元の位置に戻る。