ためらうよりも、早く。
頼んだグラスのお酒にそれぞれ口をつけて端正なその顔を見ると、彼はまたもや私の肩を引き寄せた。
「柚希の方は変わったことなかった?」
「え?ええ、そうね。仕事が忙しかったことに加えて、妹の結婚が決まったことくらいかしら。
離れていたのはたったの3週間じゃない」
言えるわけない。……そんな時間のあいだに変わってしまった事柄なんて。
「そ?」
短く言いグラスを傾ける絢はパリから帰国したばかりゆえ、単に近況を知りたかったのだろう。
「ええ、何もないわ」
一切合切、忘れてしまおう。淀みなく言い切ったその刹那、身体が引き倒される。
椅子に上半身を縫いつけられた動揺の中、視界は肩を押さえつける絢の悲しげな表情を捉えた。
「嘘はダメだよ」
「……どうして?」
「会った瞬間から、柚希が知らない人に見えた」