ためらうよりも、早く。
一目で気づかれていた、その事実に息を呑む私。店内の鈍い照明が苦悶に満ちた絢の表情を照らし出す。
「あのオトコ?」
「……え?」
覆い被さるようにして重みを掛けると、形の良い眉根を寄せて動揺する私に詰問してきた。
「ねえ、じゅ」
「柚希にそんな顔させるのってアイツしかいない。……ユウジ・サクライ、だろ?」
“どうしたのよ?”と茶化すよりも早く、はっきりとその名を出されては否定すら叶わなかった。
互いのプライベートにはそこまで踏み込まない。会えた時間の許す限り夢中で楽しむ。これが私たちだったのに。
勝手に調べ上げられていたとも知らず、興じていたなんて……。頭の中が真っ白で、力なく黙る私の口を自らの唇であっさり塞ぐ絢。
捩じ込まれた熱い舌先で咥内を刺激されても、身じろぎもせずなすがまま。それでも舌を絡め取られ、機械的に動かしていた。
どれだけ時間が経ったのか分からないほど、絢とのキスが長く感じたのはこれが初めてのことだった。
目を伏せてキスを続ける彼の長い睫毛を見つめながら、私は一切の抵抗も見せずに義務的に応えるだけ。