ためらうよりも、早く。
次第に吐息の温度は高まり、口の端からは熱を帯びたふたりの唾液が溢れていく。
すると、スッと熱の根源が離れたと同時、指の腹でそっと唇まわりの濡れた箇所が拭われる。
こんな時にまで優しく気遣うフェミニストは体勢を戻すと、横たえたままいる私の背に手を当てて起き上がらせてくれた。
「ずっと本気だって言ってただろ?」
向かい合わせの中、彼の固い口調に胸が痛みつつ、「……ええ」と頷き返すのが精一杯。
グリーンの瞳から逸らすという卑怯な真似は出来なかった。すべて悪いのは私だと戒めるしかない。
そんな懺悔をする最中、そっと抱き寄せられて穏やかなシトラスの香りに包まれる。
「愛してる」
その刹那、絢もまた同じ台詞を言う。……あの男とは違う声色で、あの男とは違う温度と仕草で。