ためらうよりも、早く。
聞いた瞬間、瞳から溢れていく涙。——同じ言葉でも、人によってこんなにも優しい色に聞こえるから切ない。
絢からこの言葉を告げられると、その度に私は穏やかに笑っていた。
だけれど、今日は心にズシンと重くのしかかり、苦しさ混じりの音に響いてしまう。
「この2年、柚希が振り向くのを待つつもりだった。
でも、“何かがあった”なら話は別だ。
出会った時から僕は君しか愛してない。柚希、僕と結婚しよう?」
セックス相手としてだけでなく、会話やさり気ない所作などそのどれもが育ちの良さゆえに洗練されていた。
さらに抜群な賢さも相俟って、人の心にずかずかと土足で踏み込もうともしなかった。
だから私は、ギリギリをいつも保ってくれる彼の優しさにすっかり甘えきっていたのだ。
「ごめ……」
「言うな!」
今さら遅い懺悔と謝罪の言葉は、珍しく声を上げた絢に制されてしまう。