ためらうよりも、早く。
絢に言い寄る女性の数は“あの男”を上回るほどいるが、私への誠実さも本当は気づいていた。
いつだって彼の言葉に嘘はなく、優しさだって一夜限りのものじゃなかったとも……。
「ご……、めん、なさい」
彼のあたたかい腕の中で、私は何度も涙で言葉に詰まりながらそう口にする。
「アイツじゃないとだめ?」
「あ、いつは……っ、け、っこんするのよ?……関係な……っ」
浮かんでは消える顔はさっきまでキスしていた絢じゃないのだから、やっぱり私はひどい女だ。
祐史のことなんてもう記憶から抹消したいのに、……それが出来る術はもう見つからないだろう。
「柚希に出会って、初めて結婚したいと思えたんだ。
もう1度言う。ーー僕と結婚して欲しい。愛してるんだ…!」
「じゅ、ん、……ごめ……っ」
そこで私の肩を持って引き離すと、席を立つ前に手にハンカチを握らせてくれる。
後ろ姿を力なく見つめる私に振り返ることなく、彼は個室の布に手を掛けた。