ためらうよりも、早く。


「……落ち着いた?」

コトン、と音を立てながらテーブル上に置かれたひとつのカップ。そこからはゆらゆら白い湯気とコーヒーの香りが立っている。


バツが悪くて俯いたまま頷くと、「……ありがと」とお礼を口にした。


ウェッジウッドのフルーツ模様が描かれたそのカップは、日ごろ自室で仕事をする際によく使っている物。


「冷めるから早く」と勧められるがままそれを手にした私は、おずおずとひと口飲んだ。


そのあとでトレーに載っていたカップを手に持ち、甘い匂いを放つ中身にふぅふぅと息をかけている。


本人はゆっくりと飲んだつもりらしいが、「あつっ!」と今回も猫舌ぶりを発揮していた。


「……やけどした?」と聞けば、ぶんぶんと勢いよく頭を振ってくれる。


「夜中のスイーツって危険だよねぇ」

「ココアでしょ?それ」

「ココアの甘さでスイーツが食べたくなるの!」


「分かってないなぁ」と加えて言う子の暢気な声に、思わずフッと笑ってしまう。


ごくごく当たり前の光景を見て、この子のあったかさに感謝するばかりだ……。


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