ためらうよりも、早く。
何故、この世で最も顔を見たくない人間と対峙しなければならないのよ……?
かく言う私も私だ。ここまでの道のりは、まさに不徳の致すところ。そんな話は、バタバタながらに平穏だった20分前まで遡る。
取引先での打ち合わせを滞りなく終え、その会社のオフィスがあるビルを出たのは、私と水橋さんと尭という3名。
時間はちょうどお昼過ぎ、近くにある創作和食のお店でランチをしようと提案したところだった。
そこに彼女のスマホに着信が入り、次いで尭のスマホも静かに振動し始めた。
ニコチン接種のチャンス到来と、さりげなく少し離れたところにある喫煙スペースを目指そうとした瞬間、腕をパシリと掴まれる。
振り返るとそれは性悪・尭の仕業だった。一向に解放しないヤツに嘆息し、仕方なくその場で大人しくなった。
ニコチン・タイムくらい欲しいのだが、食事前に吸うと飯がマズくなると言われるのだろうか。
そこで腕の力は解かれたが、通話中の彼らの視線が一様にこちらに向く状況は非情に鬱陶しい。