ためらうよりも、早く。
尭には非難を込めて睨みつけたが、素知らぬ顔で電話相手に何かを了承したのち通話を終了していた。
その直後、ふたりは示し合わせたように、自称・いらちな女に口を開く。
「柚希ディレクター、ランチはおひとりでどうぞ」と、見事なハーモニーで。
「はあ?」
苛立ちを存分に含んだ私の声音にも動じず、「たまにはごゆっくりどうぞ」と返す水橋さんには毒気を抜かれた。
そこからが彼らの真骨頂。すぐさまタクシーを捕まえ、後ろのドアが開いたと同時。
水橋さんが運転手に行き先を告げ、尭は私を半ば無理やり後部座席に押し込めてしまった。
当然、そんな暴挙に対して窓越しにこれまでの恨みも含めて文句を言いまくったが。
水橋さんは穏やかに、尭は口角をキュッと上げて意地悪くこちらを見下ろすばかり。
この状況に慄いていたのは私を乗せたタクシー運転手のおじさん、ただひとり。