ためらうよりも、早く。


清算を済ませて車を降りた私が店に入るやいなや、顔なじみの支配人によって奥の個室へと案内される。


ここは私の父も贔屓にする高級フレンチ・レストランで、定期的に家族でも訪れているからだ。


白いドアの前で止まった支配人に、「中には誰が?」とはっきり尋ねたのだが笑顔でかわされてしまう。


疑問符が渦巻く中、煌びやかなシャンデリアに照らされるその部屋に足を踏み入れてしまったのが運の尽き。


そこには既に、真っ白なテーブルクロスが敷かれたテーブル席で、私を待ち構えていた人物がいたのだから……。



「ゆーずちゃん」


ニヤリと不敵な笑みを浮かべたその男――祐史と目が合った途端、舌打ちしたのは言うまでもない。


「あ、あんた何で!?」

「はいはい、席に着こうね」


ネイビーのスーツにストライプ・ネクタイ姿で席につく男が、呆然とする私に着席を促してきた。


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