ためらうよりも、早く。
不遜な態度にも目の前の男は一切動じない。それどころか、実に愉快そうな表情をしている。
それは東条グループ内で確たる地位を築いたという、祐史の本質が垣間見える瞬間に思う。
呼吸音さえ響きそうなこの空間で、私はまるで闇のような瞳から視線を逸らせずにいた。
すると幾許か置いて、「柚ちゃん」と形の良い薄めの唇で呼ばれる。
私の肩にそっと触れた男の手で、自然と向かい合わせにされてしまった。
「折角、“こういうコト”出来るのに勿体ないじゃん」
もちろん私は非力じゃない。護身術だって修得しているのに、手も口も何も出なかった。
「今日も可愛い」
「可愛い?この年齢になって喜ぶわけないでしょ」
「柚ちゃんは分かってないなぁ」