ためらうよりも、早く。
「あのねぇ、コレは趣味じゃないのよ」
くつくつ笑う風船男の軽口に苛立ち、そのままに睨みつける。
「のんデザインだろ?」
「あら知ってたのね。のんのテーマは、森の妖精ですって」
そんな今日のスタイルは、ミントグリーン色のサテン地ワンピースにルブタンのライト・ベージュ色のハイヒール。
胸下切替タイプの膝丈ワンピースは、のんの落書きをデザイナーが形にしたもの。
“望未のスケッチ・ブックの中、見たことあります?割といいですね”
始まりは尭のこのひと言がきっかけ。色々と詰めて、ものは試しと製作したのが一枚のトップスだったが、蓋を開ければなんと品切れ続出。結果その年のSSで最も売り上げた商品となり、以降はパターン化している。
想定以上の成果には私たちもびっくりしたが、最も驚いていたのは社長である父だった。
父親が望未の才能を見出せなかったよ、とどこか申し訳なさそうに。