Revive
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少年の涙




僕はゆっくりと目を開けた。
そこは僕の知らない場所だった。
さっきまでの出来事を一瞬忘れかけたが、すぐにまた蘇ってくる。
伊達に刺されたところから血は出ていなかったし、痛みもなかった。
その時僕は、もしかしたらここは「あの世」なのかもしれないと一瞬思った。

時計を見ると午後の4時を過ぎていて、
学校帰りの小学生達が何人も通り過ぎて行った。
僕はそれから川の土手を歩いた。
陽が沈む前の、ゆっくりとオレンジ色に染まっていく空は
僕がこれまで何度も見てきた空と全く同じで、とてもあの世とは思えなかった。
あと少しすればこの空は闇に覆われていくだろう。
僕は、まだ誰も座っていないベンチを見つけたので
そこに座ることにした。
僕はベンチに寄りかかり、ゆっくりと目を閉じた。
ここが死後の世界だとしたら、夢野の母親や青木直弥に会えるだろうか。

「おい!類ー!早くしろよー!」

と、少年の声がして僕はゆっくりと目を開けた。
急に眠くなった僕は目を擦った。
さきほど類と呼ばれた少年が走って行くのが見えて
僕はその姿を目で追った。

「ちょっと待ってー!」

と言いながら走っていく。
すると、何かに躓いたのかその少年が転んでしまった。
僕は立ち上がり、その少年に近付いた。

「君、大丈夫?」

僕が声をかけると、少年はゆっくりと体を起こした。

「・・・・・・」

少年と目が合った時、僕はすぐに「どこかで見たことがある」と思った。
純粋な瞳をしていたが、心のどこかに闇を抱えているようなオーラが漂っている。

「ゆ・夢野・・・?」

僕は自分で自分の言葉に驚いた。

少年も驚いたようで僕をじっと見ている。

「僕の名前・・・知ってるの?」

僕はそう言われたので慌てて誤魔化した。

「あ、いや、当たってた?僕って結構人の名前当てられるんだよ。ははは」

無理やり笑ってみせると、少年はパッと顔を輝かせた。

「凄いね!じゃあ僕の名前は当てられる?」

「ああ。でも、さっき君の友達が名前を呼んでるの聞いちゃったんだ。
類君で合ってるかな?」

僕はこの少年が、間違いなく夢野の小学生時代だと分かった。
そして、ここがあの世ではないことも分かった。
きっと僕は夢を見ているか、過去に戻ってきたかどっちかだろうと思い込んだ。
しかし、この少年の夢野は眼帯をしていなかったし、
友達もいるようなので、まだ父親と母親が生きている頃なのだろうと予想できた。

「怪我は・・・大丈夫そうだね。友達の所に行かなくて良いのかい?」

僕はそう言いながら、再びさっきのベンチに座った。

「お兄さんの名前は?」

少年の夢野は僕の隣に座ってきた。

「僕は、空野。名前は翼だよ」

僕がそう言うと少年は「空野翼」と声に出して言った。

まだ小学生の夢野が、僕の名前を口にしたので少し変な気持ちになる。

どうせだったら僕の体が小学生に戻っていれば良かったのにと思った。

今の僕と夢野は、高校生と小学生という立場だ。


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