【完】宝探し―世界で一番愛しい人は―
とりあえず吉田さんに教えてもらった発声練習を始める。
夏休みのあいだ、私の練習にはほとんど吉田さんがついてくれた。
エリちゃんは色んな人と合わせないといけないから色んな人と練習していたけれど。
吉田さんは演劇部だけれど役は持っていなくて
脚本を担当している。
私は出番多い割りに下手くそだから要チェックされ、毎日個人レッスンされた。
私は根本的に演技のセンスは皆無らしく
いつも吉田さんの頭を抱えさせた。
けれどそのおかげでまあまあ仲良くなれた気がする。
「そのセリフもう少し抑揚つけてみて」
「はい」
「だんだんよくなってるよ」
たまに誉められるとかなり嬉しい。
もっと頑張らねばと思わずにはいられない。
もっと上手くなったら
キノも驚くかもしれない。
キノの居ない間にいっぱい練習しよう。
それでキノが来たら驚かせよう。
そんな風に胸で意気込んでいると
もう一人の姉役の子が私に近寄ってきた。
確か、名前は友紀子ちゃんと言ったな。
エリちゃんの近くによく居る、明るい色の髪二つに束ねて可愛らしく垂れている。
喋り出すと少しうるさい、エリちゃんには負けるけれど可愛い子。
その子の後ろには友紀子ちゃんと仲良しのボブの似合う女の子の麻美ちゃんがいた。
正直な話
よく喋る女の子は苦手なのであまり話さない。
いったい
何の用なんだろう。
「ねえ、高橋さんって
姉役あんまりやりたくない感じだよね」
そう言ったのは友紀子ちゃんの方だった。
「麻美がさあ、一緒にやろうって言ってたんだけど最初は嫌だってゆうから衣装係だったんだけど
練習見ててやっぱりやりたくなっちゃったんだって」
「高橋さん、代わってくれないかな?」
可愛らしく上目遣いで私を見る麻美ちゃん。
代わってくれないかって
本番はもう明後日なんだけど…
「私、セリフも全部覚えたんだー」
「麻美けっこう上手いからさ、
高橋さんもやりたくないって感じだったし
ちょうどいいと思ったんだけど?」
「えっと」
どうしよ
二人はもともと二人で姉役するはずだったんだよね。
二人は仲がいいし
私は演技が下手くそだからどう考えても二人がやった方がいいに決まってる。
…だけど、
今まで
自分なりに割りと頑張ってきたつもりなんだけどなぁ。