【完】宝探し―世界で一番愛しい人は―

ドレスを舞台裏まで持っていくと吉田さんの声が響いた。



「5分後開始でーす

照明班、音響班、準備が出来たら合図よろしくー」


なんだか、わくわくしてきた。


こんなに本格的な劇、舞台でやれば更にらしくなるんだろう。


舞台に上がっていく役者たち。


キノは舞台の上で相変わらず女子に囲まれていて身動きが取れずにいた。


幾度となく目が合うけれど、ほんの少しのコミュ力を身につけたキノは女の子に戸惑いながら何か話している。


嫉妬する。秘密だけど。


エリちゃんはさっそくシンデレラのボロい方の衣装を着て舞台を歩き回って位置を確認している。

さすがにさすがだ。


「衣装班は観劇でーす」


まこちゃんが客席で両手をあげてぴょんぴょん跳び跳ねて笑いをさそった。


私もそちらへ行き客席に腰をおろす。


後方の高い位置から光が舞台に差し込みいよいよ始まりそうな予感。


期待に胸が膨らんだそのとき



ピリリリ

ピリリリ



着信音1が
客席に鳴り響く。


あれ


わ、私の!?


「高橋さん、観劇中はマナーモードに、」


「あ、ごめ、…お母さん?」


お母さんからの電話だった。


かなり、珍しいことだ。



「ごめんなさい、ちょっと抜けます」


「はいー」


まこちゃんに断りをいれ

私は講堂を出て入り口近くで携帯に出た。


電話はまだ切れていなかった。
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