【完】宝探し―世界で一番愛しい人は―

私は商店街へと足を向けた。
一歩一歩踏み出すごとに緊張が高まるのがわかった。
たかが橋なのに

私はあの日の出来事を我ながら恐れていることを実感した。


大切な人がいなくなると思った瞬間のあの全身に響いた鼓動を今でも覚えていた。


そうか


私もなんだ。



たぶんキノが私が離れていくことを恐れているのと同じように

私もキノがいなくなるのを死ぬほど恐れてる。



あのときマヒロくんが来てくれなかったらどうなっていたんだろう。

そういえば

キノのことでいっぱいいっぱいでマヒロくんにキノを助けてもらったお礼もちゃんと言えていない。


マヒロくんにはいつも助けられていた。

エリちゃんにも。


助けてくれる人がいるって心強い。



そう思ったら緊張が和らいできた。


橋が見えてきた。


あのときと一緒だ。


水面に映るのは綺麗な夕焼けだが

土手になびく風の音は聞き覚えがある。


あの日


ここでキノは飛び降りた。

なんの躊躇いもなく。




ゆっくりと橋に足をのせ、手すりに触れる。

足を進めてみると結構な高さであることがわかった。
私には絶対ここから飛び降りるなんてできない。



キノはこの手すりに足をかけたとき何を思ったんだろう。


想像もつかない。



ぼーっと橋の上から夕焼けを眺める。
ちゃんと来れたここまで。
あの日のことはしっかりと思い出せる。

恐ろしさもある。


だけど

全部含めて、受け入れることができた。


全部受け入れて、そして、一歩踏み込む勇気を今の私は持っている。
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