【完】宝探し―世界で一番愛しい人は―

キノが開けた窓から入り込むすきま風がぐらぐらしていた頭の中をリフレッシュしてくれる気がした。


キノが何やら隣でパンフレットを広げ始めている。

こんなとこで文字読んで酔わないのかね。



「カモシカ、天然記念物なんだってよ。
見たら幸せになれるってジンクスがあるらしい」


「ただのシカじゃないの」

「スケール違うって、タカも見つけたらいいね。
見つけたら何お願いしようか」



お願いって、流れ星じゃないんだからさ。

ジンクスの意味をキノは本当に理解しているのだろうか。

たぶんキノにとってはジンクスよりもただ見たいという一心なんだろうけれど。

ちらっとキノのパンフレットを覗いてみる。


キャンプ周辺のマップと、左下に丸く囲われた部分に大きな角を持ったシカの写真と、"見かけたらラッキー!"の添字。


…これはジンクスでもなんでもないよキノ。

見たら幸せになれるというより、見れたらついてるっていうだけじゃないの。


まあ、そんなことを隣でうんうん唸りながら願い事を考えてる純粋無垢なやつに突っ込むほど私も野暮じゃないけど。



「タカが幸せになりますよーに!」


「自分の心配しなよ」


「俺の心配はタカがしてくれるからいい」


にへらと笑うキノに私はやれやれと思いながら内心ちょっと嬉しかった。

キノが私の幸せを願ってくれること

私にキノの幸せが託されたこと


まあとりあえず

カモシカを見かけたら私もキノが幸せになりますようにって願っておくことにするよ。

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