【完】宝探し―世界で一番愛しい人は―
なんかやな感じ。
キノがこんなうまくやってのけるなんて考えなかった。
人見知りのコミュ障のくせに
やるときはやるんじゃん。
「じゃあ、明日から夏休みですがちょっとずつ進めるんで
できるだけ覚えてきてくださいね」
吉田さんの声で解散になり
私はキノに何か声をかけようと思った。
けど
そんな間も与えないくらいすぐに
キノの周りに人が集まっていた。
「木野くんやるじゃん!」
「木野くんの声すごくかっこよかった!」
「ほんとによかったよ!」
え、なに、この人気
キノを囲む女の子たちなんて初めてみた。
キノはその中心でただおろおろして私に目配せしている。
「木野くん、素敵な王子さまになりそうだね」
七瀬さんまでもがキノに近づいて笑いながら声をかけた。
いいご身分ね、ほんと。
キノったらおだてられたくらいで笑っちゃって
キノってそんなキャラじゃないでしょ
女の子に囲まれて嬉しいなんて思ってるわけ?
あー
やなこと考えてる。
私は空き教室を出て教室に戻った。
本来なら喜ぶべきなんだろう
ずっと私とマヒロくん以外に干渉したりしなかったキノが
皆に囲まれてちょっと嬉しそうな顔してた。
いいことじゃん
あのキノがだよ
私がどうこう考えても無駄
むしろ私が近くにいた方女の子近寄りづらいだろうし。
キノが嬉しいなら
私も嬉しいから
「かーえろ」
まだあるキノのバックを一度だけ見て
カバンを肩にかけて学校を出た。
暑い暑い夏休み
やっと始まったのに
脳裏になんだか淀みがじわじわと広がっている気がする。
なんで私がキノのことでこんな気持ちにならなきゃならないの。
キノは自由だよ最初から
縛ってやろうなんて
一瞬でも考えた私を
どっかに押し込んでやりたい。
それにしても、シンデレラ役の七瀬さん
なんという可愛さだ
キノ、あんたほんとにもっと七瀬さんに感謝しなさいよ
あんな可愛い子の相手役なんだから。
「た、高橋さん!」
「…え?」
はや歩きをぴたりと止めて振り向くと
風にゆらぐ淡い色の髪が目に入った。
噂をすればだ。