【完】宝探し―世界で一番愛しい人は―
宝___2
長い間世話になった家に別れを告げて、大きな荷物を背負って家を出た。
特に、悲しいとかそういう感情はなかった。
むしろ早く出たいと思うほどに、あの家には母さんとの思い出がありすぎて、苦しくなる。
だからこれでよかった。
踏み出す足は意外に重苦しくなく、進んでいく。
行き先はあの家からは少し遠かった。
電車を乗り継いで一時間ほど。
あの家よりも山や田んぼの目立つ田舎らしいところだった。
なぜ家の近くではなく、転校してまでこんな田舎に来させられたのかはなんとなくは聞いた。
母さんは、あのあと結局懲役の判決が出て、まあしばらくは会えないらしい。こちらとしても会いたくないけど。
そこで、俺には母さんの兄で俺のおじさんにあたる人がいるらしく、その人に一度引き取られるはずだったが仕事の関係でしばらくは児童養護施設に預けられることになった。
で、その児童養護施設が、おじさんの家に近いところということだ。
正直、知らないおじさんのとこに行くのは気が引けるけれど、仕方がない。
俺はまだ子供で
何もできないんだから。
「…ここ…?」
たどり着いた場所は、施設というにはあまりに質素な、なんというか…そこら辺の民家と同じような造りの一軒家だった。
けれど家のドアにしっかりと"児童養護施設"という札があり、ここで間違いないことを示している。
今日からここが俺の家になる。
不安はない。
かといって希望があるわけでもない。
そうだな。
あえていうなら、
もう一度彼女に会うまで居るべき場所とでも思っておこう。
もし、また会えたら、
この気持ちを伝えよう。
まだなんて言葉にしたらいいのか分からないけれど、出会えたことが嬉しかったと、そう伝えたい。
一度深呼吸をして、インターホンに人差し指を置く。
そしてグッと力をこめた。
ピンポーン、というベルがなると同時に
思いもかけずドアが勢いよく開かれて、俺は驚いて横に飛び退けた。
開かれたドアから飛び出してきたのは、子供、子供、子供、小学生らしい子もいれば、まだ幼稚園に通ってるであろう小さな子まで
計10人ほどが一気に飛び出していく。
「おにちゃんだれー?」
「だれー?」
「おきゃきゅさん?」
無視して走ってく子達と、俺の目の前で立ち止まる子がおり、俺はただ呆気にとられていた。
すると、ドアから大きな一声が弾けとんだ。
「こらーーーー!!走らない!全員タカ姉ちゃんの後についてきなさい、迷子になるよ!?」