【完】宝探し―世界で一番愛しい人は―
一つだけ
彼女のことを、もう少しだけ知りたかった。
「その子は、なんでここにいるんですか」
「…えーとね。やっぱり、私たちもここに住んでる子のことは一応他言無用て感じでね。言うのは簡単なんだけど、できれば本人の口から聞いてくれるといいかな」
「あ、はい、すみませんでした」
「いいのよ。それに、あなたも自分のこと、言われたくないでしょ?」
「それは…そうですね」
親に殺されそうになった話なんて、自分からしたくないけど。
だけど、そういえば、タカには話していた。
言いたくないことなのに、話してしまっていた。
彼女には、なにか、そういう力があるんだと思う。
なんとなくだけど。
そのあと案内された部屋は二階の個室だった。
小学生までは四人一部屋で、中学からは個室になるらしい。
「隣の部屋がタカちゃんの部屋だからなにかあったら彼女に言ってね」
「わかりました」
扉を閉められたと同時に
畳の上にバタリと倒れこんだ。
今日からここで暮らすのか。
まあ、優しそうな人だったし、子供は少し苦手だけど関わらなければいい話だ。
あとは…
「道宮宝……か」
つまり俺に教えた名前は偽名もいいとこなラインなわけで、
あのとき本名を隠されたのか。
そんなにも宝という名前が嫌なのか。
その名前を聞いたとき、彼女に似合う良い名前だと思ったのに。
"遠く遠くに飛んでいけるタカ"
まあ、こっちも似合っているけれど。
自然と笑みが浮かんでいる自分に気づいて自分の頬をつねった。
タカと、仲良くなりたかった。
それは、初めての気持ちで
今まで人付き合いを避けてきた自分にはあまりに大きな一歩だったと思う。
友達になる方法なんて知らないし
何が言っていいことなのか悪いことなのか
それさえも分からない俺が
彼女と友達になりたいと思ったのは
とにかく、彼女に
惹かれていたからなのだと思う。
だけど、俺は、この気持ちにまだ名前をつけられずにいた。
これは恐らく
憧れとか、そういう種類のものなのだとなんとなく感じていたけれど。