【完】宝探し―世界で一番愛しい人は―
宝___4
それから、一ヶ月が経った。
学校のクラスにも割りと馴染んだし、なにより、うちのチビたちと遊んでやれるくらいの行動力が身に付いて、
それもこれも全部タカの命令だったけど、
これまでに感じたことのないような感覚のなかに俺はいた。
これが、たぶん、充実感ってやつなんだと思う。
それから…
時折襲う感情
タカの声や、笑顔や、仕草…
それはきっと、尊敬とか、憧れとか、…そういう類いの何か。
親がいないっていう、同じ境遇で、あんなにも凛としていられる彼女への…羨望…
たぶん、絶対、それ。
だから、惹かれる。
守りたい、側にいたい、何か、してやりたい
自分が与えられたぶんの幸せを、
彼女に、返したい。
どうすればいいのかわからない。
俺ばかりもらって、
まだ、何一つ返せていない。
出会ったときから、一度も、何にもしてやれていない。
なにか、出来ないだろうか。
タカのために、なにか…
「おい」
タカが、喜ぶこと…
「おい、聞いてんのか、」
わからない…
「おい!!」
べしんっ
突如頭に来た衝撃。
はっとして見上げると、金髪でうちの学校の学ランを着た男が立ちふさがっていた。
えーと、…ここは、うちだ。なんで不良みたいなやつがここにいる。
そして、今俺が座っているのはテレビのあるリビングのソファー
そして…こいつは…
「誰」
「なっ」
そう言うと、そいつはプルプル震え出して俺を睨み付けた。
「ここ最近結構来るだろうが!あと、隣のクラスだから!!茅野アザミ!!」
「声でかい」
「…ぐぬぬ…」
何なんだろうまじで。
本当に誰かわからなかった。
最近結構来てるって…俺も色々考えてばっかりで周りに目がいってなかったのもあるけれど、
だからって俺に何のようがあるんだろう。
同じクラスでもないし、
「と、とにかくだなっ、お前に1つ言っておくことがある」
「なに」
「あいつは渡さないからな」
「あいつ?」
「し、しらばっくれたって無駄だぞ。タカラのことだよ」
強気な目が俺をしっかり睨んでくるけど、あまり迫力がない。
それより、タカラって…タカのことだよな。
「お前、一ヶ月前くらいからタカラと、ど、同棲してるからってな、両想い気取りしてんじゃねーぞ!!タカラは別にお前のことなんてなんとも思ってねーんだからな、勘違いすんなよ!!」
「そんなこと、思ってないけど」
「…あ……あっそ、とにかく、あんまいい気になんなよ」
うん、わかってる。
タカが特別俺に優しいとか、そういうわけではないことくらい。
タカは誰にだって平等に優しくて、一度だって贔屓なんてしたことない。
俺がどんなに感謝してるとしても、タカは今日も俺に与えてくれた優しさを同じように誰かに与えてる。
それは、知らない人とか、たぶん、こいつとか。
別に、構わない。
そんな彼女だから、尊敬している。
「あいつは、俺に特別な感情なんて持ってないよ」
「そーだ!お前なんかな、同じとこ住んでるだけでタカラにとっては特別でもなんでもねーんだよ!」