【完】宝探し―世界で一番愛しい人は―
「大したことはないんだよ。うちにいる子で私みたいな子も結構いるからね」
「…うん」
「私、まだ物心つく前にここに捨てられたの。だから、お父さんとかお母さんとか、見たことないんだ。
でもね、別に不幸せとかじゃないし、ここにいて不自由もないから、全然気にしたことないよ」
いつもの調子で淡々と話すタカ。
俺は黙ってその話を聞いていた。
大したことはない、なんて、嘘だ。
生まれた途端に、捨てられるなんて、
そんなの、傷つかないわけがない。
「……気にしたことない…は、嘘だ。」
「え?」
「だって、宝って呼ぶの、拒むじゃん」
そういったら、
また、タカが笑った。
「なんか、キノには嘘つけないね…」
「……俺だって、タカには逆らえないんだけど」
すると、肩に重みがかかった。
ふわりとシャンプーの香りが鼻に届いた。
タカの頭が、肩に載っていた。
少し驚いたけど、そのままにしておいた。
タカの表情はここからはあまり見えなかった。
「私の宝って名前は、最初から決まってたの。ほんとの親がこの名前を書いた紙だけを置いていったから。
なんか、やなんだよね。
捨てたくせに、名前を宝にするとか。
私が宝だって言うなら、生まれた途端捨てるとかさ、わけわかんないじゃん?
矛盾してるじゃん。
もし、私が宝なら、いつか取り戻しに来てくれるのかな、なんて、何度も思ったよ。
だけどね、もう、待つの疲れちゃった。
私が宝なんて、嘘だよ。
だから、もう、名前に振り回されるのやめたの。私は、自由なタカでいいって思ったの。
私は、宝にはなれなかったんだから」
だんだんと細くなるその声に、
心臓が締め付けられた。
美人で
優しくて
世話焼きで
いつだって明るくて
楽しくて
楽観的な彼女
みんなタカと呼ぶけれど、
呼ばれる度に、タカは、何を思ったんだろう。
タカは、宝じゃない。
違う、違うよ。
絶対、違う。