【完】宝探し―世界で一番愛しい人は―
わかってる、そんなこと、だけど、
「あの、…せ、せめて、学校変えないで…
友達とか、…できたから…」
すると、真さんは眉を下げて、いかにも困ったというような表情になった。
「…ごめんね、家はここからかなり遠いから。もともと、ここの園長先生とは知り合いで、それもあって使わせてもらっていたんだ…
ごめん、ほんとうに、分かってもらえないかな…」
「隆也くん、ここにはずっと私もいるし、学校の友達も会おうと思えば会えるわ。
真さんも、ここまで大変な思いをして来たのよ。分かってくれるわよね?」
そんなの、勝手だ。
大人の都合だ。
いつも、いつも、振り回されて、やっと慣れたと思ったら向かえだなんて。
今を大切にしたいのに。
ここに居たいのに。
「……………」
「三日後に、また、迎えにくるからね…」
真さんは申し訳なさそうにそう言った。
真さんが、とても優しくて、ちゃんと俺の気持ちを分かってくれてるのは、分かった。
それでも、
俺は、頷くことは出来なかった。
俺は、捨てられた訳じゃなくて、ちゃんと迎えにくる人が最初から決まっていたのはわかってる。
真さんが払ってくれるお金でここにいるのも、わかってる。
だから、捨て子の子みたいに、その子の意思を尊重した選択とか、
俺にはそういうものは最初から与えられていない。
これは、最初から決まっていたこと。
一年前から決まっていたこと…。
たった一年。
たったの、一年だった。
そのなかで、俺は、
今まで生きてきた何倍にも、世界が広がったんだ。
経験して、たくさん感じて、言葉にして、
たくさん遊んで、たくさん笑って…
まだ、課題、終わってない。
やりかけのゲーム、終わってない。
あの手品のたねを教えてもらってない。
まだ、幻の赤いカエルを見つけてない。
まだ
気持ちを、
伝えていない。
ねえ
俺は、
まだなにも
タカのためにしてあげられていないよ。