【完】宝探し―世界で一番愛しい人は―


わかってる、そんなこと、だけど、


「あの、…せ、せめて、学校変えないで…

友達とか、…できたから…」


すると、真さんは眉を下げて、いかにも困ったというような表情になった。



「…ごめんね、家はここからかなり遠いから。もともと、ここの園長先生とは知り合いで、それもあって使わせてもらっていたんだ…

ごめん、ほんとうに、分かってもらえないかな…」


「隆也くん、ここにはずっと私もいるし、学校の友達も会おうと思えば会えるわ。

真さんも、ここまで大変な思いをして来たのよ。分かってくれるわよね?」



そんなの、勝手だ。

大人の都合だ。


いつも、いつも、振り回されて、やっと慣れたと思ったら向かえだなんて。


今を大切にしたいのに。


ここに居たいのに。





「……………」

「三日後に、また、迎えにくるからね…」



真さんは申し訳なさそうにそう言った。

真さんが、とても優しくて、ちゃんと俺の気持ちを分かってくれてるのは、分かった。


それでも、

俺は、頷くことは出来なかった。


俺は、捨てられた訳じゃなくて、ちゃんと迎えにくる人が最初から決まっていたのはわかってる。

真さんが払ってくれるお金でここにいるのも、わかってる。


だから、捨て子の子みたいに、その子の意思を尊重した選択とか、

俺にはそういうものは最初から与えられていない。


これは、最初から決まっていたこと。


一年前から決まっていたこと…。




たった一年。

たったの、一年だった。



そのなかで、俺は、

今まで生きてきた何倍にも、世界が広がったんだ。



経験して、たくさん感じて、言葉にして、


たくさん遊んで、たくさん笑って…



まだ、課題、終わってない。

やりかけのゲーム、終わってない。

あの手品のたねを教えてもらってない。

まだ、幻の赤いカエルを見つけてない。



まだ



気持ちを、

伝えていない。







ねえ







俺は、



まだなにも




タカのためにしてあげられていないよ。
< 376 / 415 >

この作品をシェア

pagetop